私たちの講座について
【歴史】
富山医科薬科大学脳神経外科学講座は、1980年4月に開講し、あわせて診療活動を開始しました。
初代教授は高久 晃(元富山医科薬科大学学長)で、1999年5月より第2代教授として遠藤俊郎が就任し現在に至っています。
この間、教室同門は総勢60余名となり、現在全国で活躍しています。
【活動・運営方針】
脳神経外科学は脳神経疾患と正面から向き合う学問であり、診療においては外科手術を中心とする治療により、個人の生命、神経機能を守ることが責務となっています。
近年の目覚ましい医学研究・医療技術の進歩と医療環境の変革の中、人間の本質とも言える脳を主な対象とすることから、私達に求められる課題は益々高度かつ多様なものとなっています。
社会のニーズに答える診療、新しい時代を切り開く研究、そしてこれらを遂行する人材の育成のための教育を三本の柱とし、大学の講座と病院診療の活動・運営を行っています。
【基本方針】
臨床講座として、第一に果たすべき役割は診療に関する課題と考えます。
附属病院における先端的かつ最善の医療実践、
関連病院との連携による地域医療への貢献、患者さんの信頼に答えることのできる医師の育成を行い、より高いレベルでの医療チームの完成を目指しています。
【当科における診療の特色】
- 診療に対する我々チームのモットーは、患者さんや家族の方と話し合いの時間を十分に持ち、お互いの理解のもとに手術を含む治療に最善の努力を尽くすことです。
- ベット数は重症室を含め 27床、年間総入院患者数は約 350 名、年間総手術数は約 250 件です。
- 血管障害(脳卒中)、腫瘍、外傷、脊椎・脊髄疾患、機能的疾患(三叉神経痛、顔面痙攣、パーキンソン病、難治性てんかん、慢性疼痛、遷延性意識障害)、水頭症、小児神経奇形、などの脳神経領域の各種疾患に対し、手術を中心とする総合的専門的治療を行っています。
- 特定機能病院として最先端の脳神経外科手術を行うと共に、24 時間の緊急診療体制をとり、救急疾患にも対応しています。
- CT、MRI、脳機能検査を駆使した手術ナビゲーションシステム (EVANS) の独自開発、神経内視鏡治療の導入と関連機器の開発、様々なマイクロ手術器械・器具の開発と臨床応用を積極的に行い、より安全で高水準の外科治療を目指しています。
【最近の診療の概要(症例数・治療成績)】
- 脳血管障害においては、発症急性期の緊急治療に重点を置き、外科治療および血管内治療を併用した先端的治療を実践しています。
特に発症 3 時間以内の局所線溶療法と外科治療の結果、内頚動脈・脳底動脈閉塞症など従来は回復の期待できなかった重症内脳梗塞症例で、約 30 %の完全回復という画期的な治療成績をあげています。
- 頚部頚動脈狭窄症に対する内膜剥離術は 200 件超の手術数を経験し、本分野で国内外の先導的な役割を果たしています。手術成績は合併症 2.3 %、再発率 0 % です。
- 新しい治療法として注目される脳血管内治療は、これまで 500 件以上の治療(年間約 40 件)を経験し、北陸信越地区における中核施設的役割を果たしています。
特に硬膜動静脈瘻は約 100 件の治療を行い、95 % 以上の治癒率(合併症 3 %)を得ています。
- 脳動脈瘤手術および血管内コイル塞栓術は年間約 40 件。くも膜下出血例が約半数で、社会復帰できた予後良好例は 80 % の成績です。未破裂動脈瘤の術後合併症は約 3 % で、全例社会復帰しています。
- 脳腫瘍手術は年間約 60 件。近年は術中ナビゲーション、脳機能モニタリング施行下の覚醒手術を導入し、腫瘍摘出率が増加し、術後合併症は激減しています。
最近5年間の髄膜腫や下垂体腫瘍など良性腫瘍の全・亜全摘出率は、脳深部や巨大病変などの治療困難例を含め 90 % 以上、術後悪化は 5 % 以下の成績です。
- 悪性グリオーマにおいても、術後 QOL の悪化はなく、約 80 % の腫瘍摘出率である。
外科治療に加え、術前後の放射線治療・化学療法の併用治療を行うことで、治療成績は徐々に向上しています。
しかし5年生存率は7%となお十分の改善は得られておらず、新たな治療手段を開発検討中です。
- 神経内視鏡の導入により、水頭症に対する第3脳室穿孔術や中脳水道拡張術、脳室・深部腫瘍に対する外科治療など、従来は行いえなかった新しい低侵襲の手術が可能となり、手術件数も年々増加しています。
- 難治性てんかん、顔面痙攣、痛みに対する機能的手術、パーキンソン病などに対する定位脳手術なども年間約30例行い、良好の機能予後を得ています。
脊椎・脊髄手術は年間約20例で、全例合併症なく症状の改善を得ている。
- リハビリテーションなど長期治療についても、関連病院との連携により充実を図っています。
【医療設備】
MRI、CT、DSA、SPECT、PET、てんかん発作解析装置、超音波診断機器、手術ナビゲーションシステム、神経内視鏡、定位脳手術機器、超音波レザー治療機器など。
【基本方針】
教育、研修の目的は、現代医学の中で求められる幅広い教養、知識、技能、人間性を持った優れた医療人・研究者を世に送ることと考える。また、自分から学び、考え、行動する能力を新たに引き出して磨くことも必要と考える。脳神経外科専門医(卒後 7 年目)および学位の取得が、診療・研究活動における第一の具体的な到達目標である。
【現状と目標】
- 過去20年の歴史のなかで、多くの脳神経外科専門医、医学博士を排出し、学内および県内外20の関連病院で活躍している。
卒後の研修は院内および関連の研修病院の協力のもと実施され、近年は初期および後期研修体制について、その構築と充実に努めている。
- 研修目標の第一は、信頼される的確な医療を行うための知識と技術の習得とする。
医師として持つべき人間性・倫理観の重要性は勿論当然のことではあるが、的確な手術適応の決定と患者さんに対して恥ずることのない実際の手術ができずして、外科医の存在価値はないと考えるためである。
- 基本的修練を終了した者は、各自が得意とする異なる領域(サブスペシャリティ)の技術を持ち、お互いが切磋琢磨しつつ高次の医療を実践できる体制を目指している。
なお卒後教育のなかには、大学院を含め一定の研究期間を組み入れている。
- 学生教育では、臨床医学教育の導入として、クリニカルワークシップなど実習重視の内容とすることが重要と考え、これを実践している。
臨床講座における研究の選択肢は、最先端の脳神経科学研究から、日々の診療に根差した臨床研究まで幅広い。診療中でも常に頭を使い、個々の病態を理解し最善の治療を行うことが必要である。各々の研究成果を融合し、臨床へ貢献できることを目標におき、研究を遂行している。
【最近の主たる研究紹介】
従来より、
- 脳血管病変の病態研究と治療、
- 脳機能研究とこれを基盤とした新しい手術法や関連機器の開発、
- 悪性脳腫瘍の病態解明と治療
を研究の幹とした、基礎・臨床研究を行い現在もこれを継続している。
神経細胞再生、先天奇形の発生機序などの基礎研究課題についても、学内外との共同研究を開始している。
最近行っている研究課題より、主たるものを紹介する。
【セプチンアンチセンス遺伝子による悪性グリオーマ遺伝子治療法の開発】
[研究の目的]
哺乳動物細胞の細胞分裂の最終段階である細胞質分裂に必須なセプチン蛋白に注目する研究である。
セプチンアンチセンス遺伝子を悪性グリオーマ細胞に導入する遺伝子治療法の開発を最終目的とし、悪性脳腫瘍治療の全く新しい方法の開発を目指している。
[研究の達成度]
研究は 3 段階で行う予定で、すでに第1段階としてセプチンが悪性グリオーマ細胞に存在すること、細胞周期の G2M による発現量が増えることを明らかにした。
今後セプチン遺伝子をセンスおよびアンチセンスの方向で Tetracycline expression system のベクターシステムを用いて悪性グリオーマ細胞に遺伝子導入し遺伝子導入された細胞株の形質の変化を調べる。
【組換え単純ヘルペスウイルスを用いた脊髄損傷ラットに対する遺伝子治療の基礎的研究】
[研究の基盤・目的]
単純ヘルペスウイルス (HSV) は高い神経親和性を示す。
この性質を応用して、病原性の低い組換え HSV を用いて中枢神経系へ目的遺伝子を導入する試みの一つである。
抗アポトーシス作用のある bcl-2 遺伝子と神経栄養因子 NGF、BDNF 遺伝子のいずれかを組換え HSV を用いて損傷脊髄組織に遺伝子導入し、神経細胞の生存維持と神経症状の改善を目的としたラット脊髄損傷モデルに対する遺伝子治療の基礎的研究を行なっている。
[研究の達成度]
病原性の低い組換え HSV-1HF を親株として、lacZ 遺伝子を組み込んだ HSV-1bH1 を作製している。
目的遺伝子を導入した組換え HSV 株を作製し動物実験モデルに応用し、成果を蓄積中である。
脊髄損傷に対する遺伝子治療のとして、神経親和性などの利点の有る組換え HSV を用いることは大変有利であり、研究成果は、脊髄損傷患者の治療に多大な貢献をすると考えられる。
【クモ膜下出血(SAH)後の脳血管攣縮および脳虚血後の再潅流傷害における血小板活性化因子(PAF)の役割】
[研究の目的]
従来より脳血管攣縮における PAF の役割に関する研究を行い、多くの基礎的、臨床的成績を報告してきた。
また最近、脳虚血の再潅流時の血管壁傷害ひいては脳組織傷害に PAF が関与についても研究を進めている。
具体的な検討項目は、以下の如くである。
1. PAF 分解酵素 PAFacetylhydrolase 蛋白の髄液腔あるいは血中投与により脳血管攣縮あるいは脳虚血後の再潅流傷害の予防が得られるかどうかを検討する。
2. PAFacetylhydrolase 遺伝子の髄液腔構成細胞あるいは血管内皮細胞への遺伝子導入により脳血管攣縮あるいは脳虚血後の再潅流傷害の予防が得られるかどうかを検討する。
[研究の達成度]
recombinant PAFacetylhydrolase 蛋白、PAFacetylhydrolase 遺伝子(血漿型、細胞内型いずれも)を含む adeno virus を作成し、これを用いた動物実験を進めている。
PAF 受容体拮抗薬、PAFacetylhydrolase 蛋白の投与、あるいは PAFacetylhydrolase 遺伝子の遺伝子治療が可能になれば臨床的にも寄与する。
【硬膜動静脈瘻の成因と進行機序に関する研究】
[研究の基盤]
頭蓋内硬膜動静脈瘻の成因および進行機序については不明の点が多い。
われわれは多くの臨床病理学的検討を行い、動静脈瘻が硬膜動脈と硬膜静脈の間に形成され、著明な静脈洞内膜の肥厚と弾性板の断裂や肥厚を伴うこと、動静脈瘻に随伴する静脈洞狭窄は罹患静脈洞の著しい線維性肥厚に起因することなどを明らかにしてきた。
[研究の目標]
本疾患症例の血漿中における様々な血管新生因子ならびに摘出静脈洞標本における血管新生因子受容体の発現、Chlamydia pneumoniae 感染との関連、動脈再狭窄の際に発現するトロンビン受容体との関連などについて、組織免疫学的手法を用いて検討し、その病態解明を計る。
本検討は、これまで不明とされた硬膜動静脈瘻の成因・進行機序の解明について大きな進歩をもたらすものと予想される。
【学内・学外共同研究】
- 双極子追跡法による脳機能マッピングに関する生理学的研究: 本学医学部生理学第二
- 脳における成長、発達に関連する蛋白質の研究: 本学医学部生化学第一
- グルタミン酸神経毒性におけるアポトーシス: 本学医学部解剖学第一、本学医学部免疫学
- glioma の悪性化に伴う特異的遺伝子発現に関する研究: 新潟大学脳研分子神経病理学
- PAFacetylhydrolase 遺伝子の神経細胞への遺伝子導入: 帝京大学薬学部生物物理学、九州大学心臓血管研究施設内科
- MEG を用いた脳機能の分析: ニューメキシコ大学 Medical Center
- 実験ラットモデルを用いた先天性水頭症の成因解明: Case Western Reserve 大学脳神経外科